[AIDA]受講者インタビューvol.7 濱 健一郎さん(ヒューマンリンク株式会社代表取締役社長)
[AIDA]の学びで「情報の味覚」が変わる
濱健一郎さんが代表取締役を務めるヒューマンリンク株式会社は、三菱商事グループをはじめとする幅広い業種の企業にサービスを提供する総合人事ソリューション会社だ。いわば、「人材開発」や「人材育成」のプロフェッショナルといえる。
人事・人材を通して、現代社会の課題と向き合う濱さんは、2020年、[AIDA]がハイパーコーポレートユニバーシティからHyper-Editing Platformに変わる時から幹事として関わってきた。濱さんは[AIDA]に何を期待するのか。
濱 健一郎(ヒューマンリンク株式会社代表取締役社長)
1971年生まれ。1995年に三菱商事入社。情報産業部門、組合専従を経て人事部異動。シンガポールでの金属資源トレーディング会社立ち上げやヒューマンリンクアジアの設立に携わる。ヒューマンリンクアジア代表取締役などを経て、2020年より現職。
[AIDA]はレセプターが壊される体験
――「人材育成」の専門家として、[AIDA]という学びの場をどう捉えていますか。
濱:2022年度のシーズン3で初めて参加した若手ビジネスマンの中に、面白いことを口にしている人がいました。優秀な方なのですが、[AIDA]で語られていることが、最初の内は「まったくわからなかった」と言うんです。「全然、味がしなかった」と。
これは興味深い反応ですし、大いに共感します。私も最初の頃は、まったくわからなかったですから(笑)。もっと正確にいうと、レセプターを壊されてしまうんです。
レセプターは私たちに備わった、外部の情報を受容し、変換する装置ですね。例えば「味覚」は舌に備わったレセプターで、甘い、しょっぱい、ということを感知し情報として処理しています。ところが、[AIDA]の講義で受け取る情報は、通常のレセプターでは処理できません。いったんバラバラにして組み直す必要が生じるんです。
――私たちの日頃の思考の仕方や、情報の受け取り方も、レセプターの一種ですね。
濱:その通りです。「固定観念」や「思い込み」で思考は成り立っています。ところが[AIDA]では、それが壊される。
「味がしなかった」と漏らしていた座衆(受講生)の話は続きがあって、実はライブセッションの3回目くらいに、こんなことを言い出したんです。「味がするようになった」と。ボードメンバーやゲスト、座衆の思考に刺激を受け、かつ参考にしながら、自分を組み立て直したのでしょう。
――[AIDA]では、「壊す・肖る(あやかる)・創る」の3段階の変容プロセスを謳っています。最初に今持っている概念を壊し、ゲストやボードメンバーの見方に肖り、新しい自分の視点を創っていく、という流れです。
濱:本当にね、それが[AIDA]では起きているんです。普通にビジネスマンとして生きていて、なかなか味覚が変わるような体験はありませんから。言い方を換えると「脱構築」と「再構築」が、[AIDA]では座衆ひとりひとりの中に常に起こっている、ということです。
今、社会人は画一的になっています。処理能力は高くても、金太郎飴。似た発想、同じ思考しか出てこない。これではイノベーションは起こせません。社会が求めているのは、イノベーションを創発できる人材です。
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▲[AIDA]全6講の奥にあるステップ。座衆は全6回のライブセッションを通して「壊す・肖る・創る」の3段階の変容プロセスを通り、各々の「編集的社会像」を構想する。
▲Season3 第3講の大阪合宿では、近畿大学アカデミックシアターで「本」のプレゼンで近大生と対決した。
「粋な大人」が減り続けている
――濱さんと[AIDA]の関わりを教えて下さい。
濱:現在、幹事として関わっていますが、これは前任者の和光貴俊さんから引き継いだものです。和光さんは、ヒューマンリンクの前社長でもあります。役職も[AIDA]の幹事役も引き継いだ格好ですね。
これは金太郎飴的人材の話とも重なるのですが、和光さんという人はその逆で、深さと広さのある方でした。落語に歌舞伎と日本の芸能文化に造詣の深い教養人で、ひと言でいうなら「粋」。私は大学卒業後、三菱商事に入社するのですが、その時の人事担当が和光さんなんです。就職活動中に、たくさんの先輩ビジネスパーソンに接しましたが、和光さんがいちばん輝いて見えました。和光さんに憧れ、「こういう人と一緒に働きたい」と思ったのが入社のきっかけです。
そのあと和光さんとの接点はしばらくなかったのですが、入社して約20年後、2016年にシンガポールにヒューマンリンクアジアを立ち上げることになって、私がそれを任されました。同社は、日本で提供する人事ソリューションサービスを、アジア地域で同様に提供することを目的にした会社です。この時の東京本社のヒューマンリンクの社長が、和光さんでした。この時以来、公私共に和光さんの薫陶を受ける機会が増えていったのですが、会話の中にしばしば登場したのが、[AIDA]でした。嬉しそうに「すっかり、ライフワークだよ。大変なんだけどね」と言っていました。
▲2005年に開塾したハイパーコーポレートユニバーシティ[AIDA]の立ち上げメンバーとしてながらく幹事を務めた故・和光貴俊さん(2020年6月逝去)。
▲HCU15期「稽古と本番のAIDA」第3講は、国立劇場で人形遣い、義太夫、三味線を体験。和光さんは鶴澤清介・清志郎の両氏に三味線をならった。
――現在のハイパーエディティングプラットフォーム[AIDA]の前身、ハイパーコーポレートユニバーシティ[AIDA]が、三菱商事とリクルートの有志による声掛けをきっかけに誕生したのが、2005年です。その時の中心メンバーが、和光さんでした。
濱:和光さんには、いろいろな遊びも教えてもらいましたね。[AIDA]で学んでみて、和光さんの「粋」と、[AIDA]で語られていることが何層にも重なりました。現在、金太郎飴的人材が増えている背景には、和光さんのような「粋な大人」が減っていることと無関係ではありません。
金太郎飴的思考には、知のストリートファイト[AIDA]を
――人材育成のプロである濱さんからみて、これからの企業人に必要なものは何でしょう?
濱:これからは、個人のエンパワーメントが必要な時代です。個人の自律的・主体的な力の必要性が相対的に高まっていく。偏差値の高低や試験の出来不出来ではなく、世の中から課題を見出し、それを解決していく思考法と行動が求められます。
そもそも、「世の中の常識」というものは、動的概念なんです。絶えず更新されている。そして企業人は「社会のため」を考える責任がある。ということは、ビジネスパーソンである以上、日常や現状にながされることなく、学び続ける必要があるということです。
もうひとつは「学びの基準」です。私たちは知らず知らず、「自分の基準」で情報を取捨選択しています。最近はその傾向をAmazonやGoogleなどのフィルタリングで、「自分の基準や好みに似ている」ピンポイントの情報がはじめからセレクトされた状態で届けられています。しかし自分の基準の中だけで学んでいては、早晩、行き詰まるのです。
――ではどうすれば良いとお考えですか。
濱:自分の枠組みを壊す術を持っている必要があると思います。そういう意味で、[AIDA]のような場が重要なんです。[AIDA]では、最新の学説も紹介されますし、話題も、生命、倫理、技術……と幅広い。それだけでなく、芭蕉やホワイトヘッド、サブカルチャーまで飛び出す。ライブセッションでは、松岡正剛座長やボードメンバーから、どんな球が飛んでくるかかわからない、緊張感もありますしね。
[AIDA]は、MBAや社会人の塾のようなオーソドックスな学びの場ではありません。さまざまな「知」が、ストリートファイト的にぶつかりあっている。だからこそ、「情報の味覚」が変わるほどの希有な体験が得られるのでしょう。
▲「AIDA OP」のイベントでハイパークラブの発起人としてコメントをする濱さん。ハイパークラブは、ハイパーコーポレートユニバーシティ[AIDA]とHyper-Editing Platform[AIDA]の同窓生組織。
[AIDA]受講者インタビュー
vol.1 奥本英宏さん(リクルートワークス研究所所長)
vol.2 中尾隆一郎さん(中尾マネジメント研究所代表)
vol.3 安渕聖司さん(アクサ・ホールディングス・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)
vol.4 山口典浩さん(社会起業大学・九州校校長)
vol.5 土屋恵子さん(アデコ株式会社取締役)
vol.6 遠矢弘毅さん(ユナイトヴィジョンズ代表取締役)
vol.7 濱 健一郎さん(ヒューマンリンク株式会社代表取締役社長)
vol.8 須藤憲司さん(Kaizen Platform代表取締役)