Season 4   第1講

「意識と情報のAIDA」に挑む

2023.10.14

Hyper-Editing Platform [AIDA]で問うのは、今日的かつ根源的な問題だ。

AIをはじめとしたテクノロジーの急進は、私たちの「意識」にどのような変容をもたらすのか? 終結の見えない国際紛争、疲弊する資本主義、世界を覆うSNS社会とポスト・トゥルースなど、ますます複層化・複雑化する「情報」と、私たちはどう向き合っていくのか?

あらゆる価値観や現象が流動化を起こす現代において、一人ひとりがどのような思考や行動の基軸をもつべきかが今あらためて問われている。Hyper-Editing Platform[AIDA]Season4は、「意識と情報のAIDA」をテーマに掲げ、ここから半年にわたるプログラムのスタートを切った。

計41名の座衆(受講生/リアル参加24名+オンライン参加17名)、6人のボードメンバー、松岡座長、ゲスト講師が、リアルとオンラインでの交わし合いを通じて、今期のテーマをめぐる多様な「問い」に挑み、思考を深める。「情報」との向き合い方、そこから生み出される「意識」の諸相等。日頃は自覚的に向き合うことが難しい「意識と情報」をめぐる世界と自己の深部に、多分野の知性とともに分け入っていく。

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Season 4 

座長:
松岡正剛(編集工学者)
ボードメンバー:
大澤真幸さん(社会学者)
佐藤 優さん(作家・元外務省主任分析官)
武邑光裕さん(メディア美学者)
田中優子さん(法政大学名誉教授・江戸文化研究者)
村井 純さん(情報工学者)
吉川浩満さん(文筆家・編集者)

【松岡正剛座長講義】 情報の始原から編集的世界観へ

Season4開講にあたって、松岡座長が座長講義で示したのは、7つの道筋だ。

▲松岡座長講義で使用されたスライドの扉ページ

 

「情報」とはなんだろうか。組織にとっても個人においても、「情報」は常に大切な資源であり明日を脅かすリスクでもある。企業と情報は切っても切れない関係にあるだろう。だが、ここで扱う「情報」のスコープは、いわゆる情報化社会の「情報」に留まらない。そもそも生物自体が、情報の集合体だ。生命に先行するのが、情報である。

松岡座長は冒頭で「意識よりも情報が先にあった」と切り出し、まずはじめに「1 情報はどこから来たか」を問うた。宇宙、地球、生命体……。情報を始原から捉え直し、その上で、脳、文、文字、物語、コミュニケーション、メディア……と地球史・生物史・人間史・社会史のいずれをも貫通してきた「情報」編集のプロセスを高速でたどった。

続いて、「2 意識とは何か」。座長は、動物とホモサピエンスの差異から「意識」を語る。そして歴史、制度、国家、宗教、LGBTQ……と話を進める。

宇宙から喫緊の問題まで、「情報と意識のAIDA」も広く深い射程が示される。いわく「情報と意識の〝由来〟と〝将来〟を関係編集すべきである」。

 

【ボードメンバー】意識と情報のAIDAをどう見るか

松岡座長の「導入講義」を受け、6名のボードメンバーが次々とこのテーマにおける「見方」を披露していく。

大澤真幸「編集力を身につけなければ、生成AIに負ける」

社会学者の大澤真幸さんは、「情報を関係づける方法」「知を躍動させる方法」として、「編集工学」を援用しつつ、生成AIが席巻する現在の状況への危機感を吐露する。「生成AIは便利です。しかし、アナロジーとアフォーダンスで大胆に主と客を入れ替える〝編集力〟を身につけなければ、私たちは生成AIの言いなりでしょう。思考もプロセスもすべて奪われ、人間が生成AI仕様になってしまうということです」。

 

吉川浩満「ビットコインとカレーライス、デジタル情報としては大差ない」

今期Season4からボードメンバーに加わった編集者の吉川浩満さんは、進化論・心脳問題を考え続け、著作も多数出してきた。米国心理学者ジョージ・ミラーの言葉「人間は〝情報食〟の生き物だ」を引きながら、「ビットコインとカレーライスは質的に全く異なる。しかしデジタル上は0と1の並びに過ぎず、情報としては大差ない」とデジタライズされた情報を見る際の問題を指摘する。「情報の概念を広く捉え直せば、意識という謎への向き合い方にも緒が見えるのではないか」。

 

佐藤優「手術後、すべての記憶が押し寄せてきたのは何故か?」

2023年6月22日、腎臓移植手術を受けた佐藤優さんは、術後、「過去の人生であったすべての出来事の記憶が解凍されて甦ってきた」という。しかもこれまで思い出すことすらなかった幼少期の記憶が怒涛のように再生された。時空をまたぐ非連続なMemoryのRecallが、突然、襲ってきたのだ。意識と無意識の関係はどうなっているのか。「意識と情報のAIDA」は佐藤さんの個人的な体験からしても、今一番関心のあるテーマだという。

 

武邑光裕「問題は、意識の〝外注化〟が始まっていることだ」

「意識のメカニズムは解明されるか否か」。メディア美学者の武邑光裕さんは、2023年6月23日に一旦決着した、科学界のある「賭け」を紹介した。神経科学者コッホと哲学者チャーマーズ「意識」論争である。1998年、コッホは「四半世紀後に意識は解明される」と主張し、チャーマーズは「しない」に賭けた。「結果は、チャーマーズの勝ちでした。いまだ意識は解明されていません。一方で、生成AIなどへの意識の外注化が始まっている」。

 

村井純「デジタルにできないことが、明確になってきた」

「日本のインターネットの父」こと情報工学者の村井純さんは、「デジタルが万能でないことはわかっています」という。「人間の目は100000nitを感知しますが、デジタルで表現できるのは1000nit程度です」。「nit」とは輝度のこと。例えば人間の目は、雲の中を飛ぶカモメを認知できるが、デジタル技術では判別できない。だからこそ「人間の意識にしかできないこと」に目を向ける必要がある。

 

田中優子「情報の置きかたで、意識や価値観はガラリと変わる」

江戸文化研究者の田中優子さんは意外なことに「春画」を持ち出した。江戸時代まで、春画は嫁入り道具のひとつだったという。男と女がまぐわう姿は、かつてはおおらかに共有されるべき「情報」だったのだ。ところが近代になり、「性」は隠されてしまう。「隠されたことで、性は語りづらい、という意識になってしまった。情報の置きかたで、意識や価値観がガラッと変わってしまったのです」。

 

【AIDAセッション】生成AIと意識、情報にまつわる問い

「本楼」に集まった座衆たちも、思い思いに「見方」を披露した。ある座衆は「自分がこれまで捉えていた〝情報〟の概念が狭すぎたのでないか」と自身を振り返り、別の座衆からは「思考の枠組みが壊された」という声も挙がった。

軽井沢風越学園の理事長を務める本城慎之介さん(座衆)は、本楼に掲げられた松岡座長の書に目を留めた。「意識の『意』は子どもたちから見れば、タコが踊っているように見えるし、情報の『情』は何かが並んでいるように見えるんじゃないか」。子どもの目を通すと、情報も違う様相に見える。

▲松岡正剛による書。意識の横には「あらわれ」「Ghost」、情報の横には「うつろい」「Demon」が記されている。

 

第1講の最後、生成AIと意識・情報にまつわる問題が話の中心になったところで、松岡座長からさらなる「問い」が3つ、投げかけられた。

  1. 生成AIに似たことは歴史上・文明上あったのか?
  2. 生成AIが登場する前から、あらゆるカルチャーが生成AI化していたのではないか?
  3. 「強さ」を目指すと、平均化=生成AI化を起こす。「壊れやすいもの」「ないもの」を私たちは重要視すべきではないか?

 

この3つは、Season4を貫く「問い」でもある。

3つの「問い」は、これからの半年でどのように、深まるのか、広がるのか、転移するのか。

次回第2講は発達心理学の森口佑介さん、認知神経科学の金井良太さんをゲストに迎える。

 

Season1から3の開催記録はこちらからご覧いただけます

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