Season 1   第4講

生命の進化、文明の進化

2021年1月16日

「生命と文明のあいだ」を考える[AIDA]シーズン1。第4講のゲストは進化発生学者の倉谷滋氏。生命の進化を紐解き、そこから文化の発展にまでスコープを広げる。コロナ禍の緊急事態宣言により、倉谷氏は神戸の自宅からの中継となった。

 

多様性と共通性は表裏一体なのだ。
―倉谷滋 『進化する形』

私達はおともと制限を受けている。
しかし制限を受けているということはそこにいくつでも
ルールを創発させることができるということだ。
―松岡正剛 『知の編集工学』

◉        ◉        ◉

 生命にも文明にも「形」があり「型」がある。この世界には、なぜこうもさまざまな形をした生物がいるのだろうか。文明はなぜ、こんなにも多様な姿をしているのか。無限の可能性の中で、われわれはなぜ今あるような様子をしているのか。

 「形(ボディプラン)」を媒介に、生命と文明のあいだにある相同性に触発される第4講。ゲストは「進化発生学」の倉谷滋氏だ。「進化発生学」は、生物の発生過程がどのように進化してきたかを研究する生物学で、「Evolutionary Developmental Biology」略して「エヴォデヴォ」と呼ばれる。何世紀にもわたって積み上げられた進化学と発生学の仮説を練磨し、新たなアプローチで生物進化のメカニズムを解く現代科学の注目ジャンルである。

 たくさんの不思議な標本に囲まれた倉谷氏の部屋は、少年の夢の国のようでもあった。神戸のご自宅と本楼を中継し、めくるめく「形」と「姿」の世界に分け入っていく。

プログラム

13:00〜 オープニング
13:55〜 倉谷滋 ソロ講義「進化するアーキタイプ」
15:05〜 倉谷滋 × 座衆 ゲスト・ディスカッション
15:40〜 倉谷滋 × 入江直樹 × 松岡正剛 鼎談セッション「何がどのように“形”を決めるのかー編集的進化形態論」(note掲載)
16:30〜 編集工学レクチャー
17:30〜 AIDAセッション(全員参加)「進化と倫理と私を巡る問感応答返」

開催風景

博物館さながらの自宅から中継する倉谷氏。途中キングギドラのフィギュアを例に出したり、美術の様式「マニエリスム」の発展と生物進化の類似性を指摘しながら、ユニークな講義となった。当日はボードメンバーの岩井克人氏(経済学者)、中村昇氏(哲学研究者)、倉谷氏の教え子でもある入江直樹氏(東京大学大学院理学系研究科准教授)も参加した。
▼鼎談セッションのレポート記事はこちら
倉谷滋 × 入江直樹 × 松岡正剛 鼎談セッション「何がどのように“形”を決めるのかー編集的進化形態論」(note掲載)

講義の本棚「ボディプラン進化を巡る7冊」

ライブセッションで交わされた議論から、より思索を深めるための参考書籍を、運営チームがピックアップ。
今回は、生物の形(ボディプラン)の秘密を解き明かす7冊を紹介。

Season1_4講「講義の本棚」

『進化する形』倉谷滋(講談社現代新書)/『怪獣生物学入門』倉谷滋(インターナショナル新書)
『進化論(上・下)』
ダーウィン(光文社古典新訳文庫)/『個体発生と系統発生』スティーブン・J・グールド(工作舎)
『胎児の世界』三木成夫(中公新書)/
『エチカル・アニマル』コンラッド・H・ウォディントン(工作舎)
『迷宮としての世界』グスタフ・ルネ・ホッケ(岩波文庫)

◉        ◉        ◉

 倉谷滋は、「生物の形(ボディプラン)の進化」を研究している。ボディプラン進化はダーウィン進化論だけでは説明できず、いまだに理論が整備されていない。ヘッケルは「派生は進化を繰り返す」という反復説を唱え、三木成夫はそれを個体レベルにまで拡大したが、この理論でも説明しきれない

 倉谷がいまもっとも有力と考えているのは、発生過程初期からすでに変化が生じ、抜本的な形態変化が生じると見る「アルシャラクシス理論」だ。たとえば亀の祖先は、甲羅を形成するために肩甲骨の位置を変えた。亀は自身の発生プログラムを改変して、甲羅という独特の進化を遂げたのだ。ウォディントンが唱えたとおり、ボディプラン進化は「エピジェネティック・ランドスケープ(発生過程の地形)」が変形するプロセスだ。

 倉谷は、ボディプラン進化は「マニエリスム」に似ていると語る。どちらも、自由で偶然に満ちたアルス・コンビナトリア(結合術)によって、迷宮のような多様性をなしているからだ。この点で、生命の進化モデルと文明の進化モデルは相似している。

 

◀︎ 第3講 大いなる文明と小さきものの文化

第5講 「持たざる国」日本の行方 ▶︎

TOPに戻る